企業領域で「キャリアコンサルタント」が活躍する近未来(前編)

業界の現状

 2016年4月に職業能力開発促進法の改正で、新しく創設された「国家資格 キャリアコンサルタント」の資格制度、2020年12月時点で全国に54,534名の有資格者が登録されている。「特定非営利活動法人 キャリアコンサルティング協議会」がまとめた「キャリアコンサルティングの現状と課題(2019年11月27日付け)」によると、キャリアコンサルタントの活躍の場は「企業内」が大きく伸長しているが、大手企業では内製化が進み社内で資格取得を支援する傾向が高く見受けられるとのレポートがある。

 同レポートによる企業領域における、「キャリアコンサルティング」の仕組みの導入は、大企業で50%から60%であることに対して中小企業での導入は20%から30%であるのが現状であると報告されている。また、正規社員と非正規社員とのギャップは大きく大手企業においても非正規社員へのキャリアコンサルティング制度の実施には開きがあるが、キャリアコンサルティングを受けた(経験した)人の70%近くが「問題は解決した」と回答しており、相談することである程度課題が解決しているとレポートからは判断することができる。しかしながら、「キャリアコンサルティング」がもたらす効果への理解度合いは、経営陣および人事関係者の間での認識がまだまだ低いと考えられるのも現状である。

 一方、中小企業庁の統計データでの大手・中規模の企業の合計で54.1万企業あり、企業全体の約15%となっているが、「大手」とされる企業は約1.1万企業で日本国内の「中規模・小規模・零細企業」は全体の99%以上となる。中小企業においては、社内でキャリアコンサルタントの育成などの人材育成に余裕がないのが現状であり、特に従業員数の少ない企業では従業員のキャリア向上に向けた支援へ注力していない、余裕がないのが現状と推察される。中小企業の経営戦略上、人材育成への支援の優先順位は低い傾向にあり、業務に直接関連する資格取得への支援制度はあるが、キャリア醸成に向き合う目的でのキャリアコンサルティングはほとんど導入されていない状況である。

中小企業の課題

キャリアコンサルタントが中小企業へ従業員のキャリア支援を目的に活動する可能性は理論的には高いとされている。しかしながら、企業側には課題があるといえる。(もちろんキャリアコンサルタントに課題がないわけではない)

一つ目の課題

 「キャリアコンサルタント」が企業や従業員へもたらす具体的な効果が理解されていないこと。中小企業の経営者と話す機会では「キャリアコンサルティング」を行うことで優秀な従業員が転職を視野に入れ、転職を考えるようになってしまうのではという懸念が最初に浮上する。「キャリアコンサルティング」=「転職支援」という考えが現在一般的なイメージであり、従業員の現在の会社でのキャリア醸成を支援するということに直結していないのが現状である。

二つ目の課題

 「会社の内情を外部に話されたくない」という、経営サイドの問題である。「キャリアコンサルタント」は外部専門家として企業と関わるが、従業員との面談を通じて様々な仕事上の悩みや課題を話すことで従業員が会社側の課題などを外部に話すことを経営サイドは懸念している。(守秘義務や秘密保持契約を締結しても不安)

三つ目の課題

 「ストレスチェック」のように法的に義務化されている案件へは取り組む姿勢を出すが、「キャリアコンサルティング」の仕組みの導入はあくまで努力義務であることから、現時点での必要性を感じていない中小企業がほとんどである。お客様から「義務化されたら検討する」などと断り文句として言われるケースが多々みうけられる。大手企業とは異なり中小企業においては「人材育成」「従業員のキャリアプラン」などへの仕組み作りや投資への優先順位が低い傾向にあり、キャリアアップ関連の制度も確立されていない。しかしながら、個人のキャリアコンサルティングの場面で多いのは、「従業員は自分のキャリアを考えたり悩んだりしている」が、誰と話したらよいのか分からないということが現状である。(上司には話せないと言われる方が多い)

 一歩一歩ではあるが、企業の経営陣へ「従業員が主体的にキャリアを考える機会を提供することで生産性の向上へとつながる」ことなどの啓蒙活動が必要とされると考える。

古市 健