「問いかける技術」 ~人を支援するとはどういうことか、そして質問力~

 今回は、問いかける技術、人を支援するとはどういうことか、そして質問力です。この「問いかける技術」は、組織心理学の泰斗、エドガー・H・シャインというMIT(マサチューセッツ工科大学)の名誉教授が著した書籍の表題にもなっています。まず、エドガー・H・シャインは、非常に有名な学者で、国家資格キャリアコンサルタントならば、必ず知っています。彼の「キャリア・アンカー」という言葉は、資格試験にも必出なので、知らないともぐりになってしまいます。日本語訳の書籍も多く発売されています。

 他にも「キャリア・サバイバル」であるとか、組織の中で人がどのように働いていったらいいのかという問題意識を持って、組織心理学者として長年MITで教鞭をとられています。
彼の書籍をまとめたのがこちらになります。

 上から「組織に対して」、「集団に対して」、それから「個と個の関係」、「個人の生き方」のように分類しました。 「組織に対して」では、彼の教え子が社長で、彼自身も顧問を務めていた「DECの興亡」というもので、その時の体験を書いたものです。あるいは「組織セラピーとは」や企業文化に関する書籍を多く著述しています。それから「キャリア・ダイナミクス」というテーマで書かれた書籍もあり、私も先生と共著ということで「キャリア・ダイナミクスII」というものを出させていただいています。他にも「プロセスコンサルテーション」(このテーマだけで取り上げたいと思っています)というような書籍を書かれています。

 今回、触れたいのが「個と個の関係」、人と人とがどのように対応したらいいのか、ということです。そこには、一般に三部作と呼ばれる「問いかける技術」、「人を助けるとはどういうことか」、それから「謙虚なコンサルティング」という、神戸大学の金井壽宏名誉教授が訳されたものがあります。「問いかける技術」、日本語としてはそのように訳されますが、原題は「Humble Inquiry」です。このHumbleが、非常に重要な言葉であり、この三部作の「謙虚なコンサルティング」も原題は「Humble Consulting」です。つまり、金井先生はHumbleを「謙虚な」と訳されており、まさにその通りだと思います。Humble=謙虚に質問をしていく、問いかけていくというのが、「問いかける技術」の要点になっています。

 では、「謙虚に」というのは、いったいどういうことでしょうか。
キャリアコンサルタントの方々は、1対1でカウンセリングしているときに、クライアントの問題点、課題はどのようなところにあるかということを「見立てる」ことを習い、実際のカウンセリングの場面でも使うことがあります。例えば、上司と仲が悪いということで相談にいらっしゃったけれど、実は最初から毛嫌いしてコミュニケーションの機会が凄く少なくなっており、コミュニケーション不足になっているのではないかと見立てたとすると、キャリアコンサルタントはクライアントが、オープンマインドになっていなくて上司と話していなかったなと気づいてもらうようにします。その際に、仮に「あなたは心を閉ざしていて、最初から上司を毛嫌いして、コミュニケーションをとってないでしょう。それじゃだめでしょう」とは言いません。そうではなく、謙虚に問いかけていきます。「上司の方とはどんなコミュニケーションを今までされてきたんですか」、「上司の方のことはどのように思われてるんですか」とか、逆に「上司の方はあなたのことをどういうふうに思っておられるとあなた思われていますか」などです。そこには仮説として、この人は上司とコミュニケーション不足なのではないかというのはあっていいのですが、それがダメだとか、直せという指示命令的な言い方やニュアンスの問いかけをしてしまっては、そのクライアントも心を閉ざしてしまいます。別にコミュニケーション不足を悪いとも良いとも思わずに、コミュニケーション不足に対する気づきがあればいいなぐらいの感じで謙虚な質問をしていきます。もしかして、その見立ては仮説であり間違っているかもしれないからです。だから、Humble Inquiry(謙虚な問いかけ)であっていただきたいです。そいうすることで、はじめてクライアントに気づきが得られて、「人を助けるとはどういうことか」(原題:Helping)につながると考えています。

上記コラムの説明動画です。

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(柴田郁夫)