キャリアコンサルタントとクライエントとの関係構築について

キャリアコンサルタント(キャリコン)の「あり方」やスタンスについて大きな誤解があるな、と感じることがあります。

スタンスの誤解

「コンサルタント」という名称が付いているのだから、クライエントが納得するような改善策やアドバイス(助言)、提言・提案なりを私たちキャリコンは出来なければいけない、といった誤解です。
とくにこうした考えを持ちやすいのは、企業等の組織で、管理職(マネージャー)経験の長い方が多いようにも感じます。
組織内では問題が起きた時には、すぐに解決策を提示できるのがマネージャーという位置づけだったのでしょうか。

キャリアコンサルティングを行う目的

私たちが、キャリアコンサルティングを行う目的は、クライエントの方がより良い人生を送れるようになること、そしてそのためにクライエントの方に何らかの気づきを得て頂き、それまでの捉え方や考え方を見直すきっかけをつかんでもらうようにご支援することです。

この「気づき」は、自己内省(自分のそれまでの考えや行動などを振り返ってみること)から生まれることが多いと言えます。
自身の今までの自分自身に対しての捉え方や、また他人に対しての捉え方、さらに周囲で起きている事柄に対しての捉え方などを振り返ってみると、そこに「ああ自分は今までこんな風に捉えてきたんだ」といったことに気づき、そこから未来の行動への選択の余地が生まれます。
つまり今までの自分を振り返り、客観視できるようになることで、では次の行動はどうしていこうか、と選び取ることができるようになる、そこでは望めば行動を変えていける、その出発点に立てるようになる、と言えるわけです。そしてそうしたプロセスをご支援するのがキャリアコンサルタントだ、ということになります。

話を戻しますと、そのような「気づき」をクライエントに得てもらうには、キャリアコンサルタントがすぐに「こうしたらいい」といった「助言」的なことを言ってしまっては、クライエントの内省の時間がなくなることになってしまいます。クライエントが自らの力で「気づき」を得られるようにサポートするのが私たちの役割であり、またそうできるように、私たちはクライエントに効果的な(助言的な発言ではない)問いかけをしていけるかが、キャリアコンサルタントの技量(スキル)である、と言えるのです。

但し、こうした「助言」を私たちキャリアコンサルタントは、まったくしないのか、と言えばそうではありません。アイビイのマイクロカウンセリング技法の階層表の三角形は何度か取り上げてきましたが、その比較的上に位置付けられる「積極技法」の中には、「助言」や「教示」また「解釈」や「指示」といった言葉(技法)さえあります。私たちは、ときにはこうした技法を用いることもあるのです。

ここで重要なのは、この「積極技法」を使う時には、キャリアコンサルタント側が、あくまでもクライエントの方の成長や発展を願って、あえてこの技法を用いるんだ、という明確な意図のもと、意識的に使う、ということです。

まとめ

私は、70歳に近い年齢となりましたが、ときにまだ20歳前後の学生の方々とキャリアコンサルティングを行う事があります。1時間程度の面談を2,3回と重ねてきて、関係構築(ラポール形成)もだいぶ進んだな、いい関係が作れているな、と感じられている面談で、少しきついかもしれないけれど、この歳の離れた孫のような学生の方に「あなたはこうした方がいい」と積極技法を使うことがあります。それはこの学生の方が、そのようにキャリアコンサルタントから言われることで、より早く、また強く「気づき」を得られるようになり、それがこの方の成長・発展に役立つのではないか、とあえて思えたから、注意深く意識して用いた、ということです。

「解釈」もこの積極技法の中にあることを意識してください。よくキャリアコンサルティングを学び始めたばかりの方は、ご自身の解釈をクライエントに対してされる方がいます。「私はこう思います」や「それは日本の将来にとって素晴らしい行動だと思います」といった講釈だったり、また「あなたの話をお聴きして私は今まで〇年生きてきてもっとも感動しました」といった感想だったりしますが、これらもすべて積極技法である、といった事を意識して、キャリアコンサルタントは発言をして頂きたいと思っています。

執筆者:柴田郁夫
(一般社団法人地域連携プラットフォーム代表理事、1級キャリアコンサルティング技能士)