キャリアコンサルタントとクライエントとの関係構築について

私が代表を務める一般社団法人地域連携プラットフォームでは、「キャリアコンサルタント養成講習」とは別に「受験対策講座」を開催していますが、その受験対策講座では「面談中にクライエントを褒めた方がいいのですか?」といった質問を受けることがあります。

実際の面談の場面

たしかに、実際の面談の場面(実務の現場)では、そのクライエントとの関係構築をするために、クライエントの事を褒める事はあります。
例えば、クライエントが著しく自信をなくしている場合とか、失業中で何十社受けても就職が決まらない場合など、「Aさんが今までに成し遂げてきた素晴らしい成果をご一緒に振り返ってみませんか」といった形で、Aさんが少しでも自身に対しての尊厳を回復して頂きたい、と願うような場合です。
但し、ここで大事なのは、本心からそう思って発言して頂きたいという事です。「この人は過去にたいした成果もあげていないが、ここでは関係構築の為に、おだてておこう」といった気持ちで言ったのでは、確実に見透かされ逆効果です。

関係構築を図るには?

私たちキャリアコンサルタントの素直な感情の発露として、クライエントの発言に対して本当に素晴らしい、と感じたならば「それはすごいですね」といった発言をすることは、とくに問題ないと私は思っています。
しかし早急にラポールを形成(関係構築づくり)しなければいけないから、ここでは褒めて(おだてて)おこう、といった形での発言は避けるべきです(NGです)。

国家資格の試験の話に限定すれば、私は「褒める(おだてる)」といった発言は、とくにする必要はないと思っています。関係構築を図りたいのであれば、しっかりとクライエントの話を聴き、適切に相手の話を繰り返す(言語追跡)、声のトーンに注意する、といった事で十分にラポール形成は可能です。それ以上のことは必要ありません。ましてや、一部の受験対策校では15分の中で「少なくとも1回は相手を褒めなさい」といった指導がされている、といった話を漏れ聞きましたが、もってのほか!、と私は思っています。

 但し、ここでも素直な感情として「すれは素晴らしいですね」といった言葉が、相手への承認を表す言葉として、つなぎ言葉のように発せられるというのは、問題ないかとも思っています。それは「合いの手」や「うなずき」の一種とも考えられるからです。

 また、褒めることによって、クライエントがキャリアコンサルタントに、もっと褒められたいから、と思うようになり、クライエントの話にバイアスが掛かる(クライエントが話したいことを話すというよりも、相手に褒められたいからといった理由で話し始めるようになってしまう)といった弊害が指摘されることもあります。

まとめ

繰り返しになりますが、まずは国家資格の受験の際に、相手を褒めたり、おだてたり、といった事は必要ない、と考えてください。「ねぎらう」といった言葉かけの重要性を述べる方もいるのですが、私はそれもどうなのだろうと思っています。
例えば「そこまでご苦労されてこられて、さぞ大変だったことでしょう。お察し申しあげます」といった発言ですが、これは言葉にして出さなくても、声のトーンに十分に留意して、相手の言葉をただ繰り返すだけで、そうしたねぎらいの気持ちを相手に伝えることは可能だと考えるからです。

「受容」と「共感」というカウンセラーのベースとなるあり方を押さえたうえで、視線や身体言語を含む傾聴姿勢、言語追跡、声のトーンといった基本的な技法ができていれば、ラポール形成(クライエントとの関係構築)は自ずと形成できる、と考えられるからです。


最後に一言。キャリアコンサルタントの養成講習で行っている内容は、「受験対策」を目的としたものではありません。しかしそこで学んで頂いている事柄は、もちろん受験でも役立つ基礎となる事柄ばかりです。
受験と、実際のキャリコンになるための実務のための養成講習の中身が異なる(齟齬する)、という事はもちろんありません。では何のために受験対策講座(さらに、弊校で行っている「面談練習会」など)があるのか、ということにもなりますが、それは場数をこなして頂いて、よりキャリアコンサルティングというものに対しての理解を深めて頂きたい、と考えているからです。

執筆者:柴田郁夫
(一般社団法人地域連携プラットフォーム代表理事、1級キャリアコンサルティング技能士)